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第24話 勉強で始まる異世界生活

Author: 青砥尭杜
last update Huling Na-update: 2025-02-16 18:36:55

 テルスと呼称される異世界にカイトが召喚された聖暦一八八九年九月十一日から、ミズガルズ王国の宰相であるセルシオはその対応に追われた。

 セルシオは女王の諮問機関である枢密院の議長を務めるマジェスタと連絡を密にしながら、カイトへのサイオン公爵位の叙爵を略式として断行することで異例の早さで済ませた。

 マルチタスクで政治的な処理を片付けてしまう豪腕をもって宰相まで上り詰めたセルシオは、カイトの魔道士への叙任及びミズガルズ王国の筆頭魔道士団であるトワゾンドール魔道士団への入団の手続きも自らが主導して断行した。

 トワゾンドール魔道士団への入団に際しては、顧問として迎えている太聖エルヴァの意見を尊重し、ダイキの不在により空位となっていた首席魔道士へのカイトの就任を決定した。

 カイトの魔道士としての叙任式典を、朔日である十月一日に執り行うことも併せて決定した。

 辣腕をふるうセルシオが激務をこなしてみせるのとは対照的にエルヴァの屋敷に滞在するカイトは、日に数時間程度のエルヴァから受けるレクチャー以外の時間は既に一通り読み終えている禁書を読み返すなどして、勉強に専念するという大学生だったカイトには違和感のない形で異世界での生活をスタートさせた。

 禁書に記された十五種の天使に関する情報をすっかり頭に叩き込んだカイトは、通常のランク付けとは別枠として扱われるミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四大セラフと、サタン、バアル・ゼブル、ベリアル、ペイモンの四大ノフェル。そしてランクには属すが上位の存在として扱われるセラフとケルブの次に位置するスローンまでの五種を、九月十五日までに召喚させてみせた。

 十五日の昼過ぎに訪れたサイオン領の飛び地でありカイトが召喚された日にも召喚魔法のレクチャーに用いた草地で、カイトがスローンの召喚を成功させるのを目にしたエルヴァは歓声を上げた。

「いやいやいや……! 僕の弟子は本当にやってくれるね! ほんの数日でジズやバハムートなんかの四大幻獣に匹敵するスローンを召喚しちゃったよ」

 カイトの意欲にほだされて普段は必ず休むと決めている日曜日にも関わらず、レクチャーに付き合ったエルヴァは心の底から愉快だと表すように両手を叩き合わせて感嘆した。

 優に五メートルを超える体長を誇るスローンの白銀に輝く威容を目の当たりにしたカイトも、自分が異世界で確実に通用するだろう力を獲得している実感に満更でもない顔を隠せなかった。

 週が明けた月曜日の九月十六日には、テーラーの店主が自ら昼前にエルヴァの屋敷を訪ねてカイトのサイズに仕立てた軍服を届けた。

 王室御用達のテーラーが総力を挙げて最優先で縫製された軍服は、五着が同時に納品された。

「袖を通してみたらどう?」

 エルヴァが気楽な調子で口にした提案を受け入れ、カイトは自室で軍服に着替えた。

 純白の地に真紅の縁取りが施された軍服と、揃いのデザインのマント。

 マントの中央上部には金糸で刺繍された翼を持つ金色の羊のエンブレムがあり、エンブレムの下には首席魔道士であることを示す一の席次ナンバーがローマ数字で刺繍されていた。

 姿見に映る自分の姿を見たカイトは苦笑を漏らした。

 百七十四センチの中背で、特に髪型を気にしていないせいでボサボサの黒髪。どこまでも平凡な日本の男子が着て似合う種類の服装ではないとカイトは感じた。

 応接間に戻った軍服姿のカイトを見て、エルヴァは好ましいものを見るように目を細めた。

「いいんじゃない。思ったより似合ってるよ」

 エルヴァが感想を口にすると、ストーリアが満足そうにうなずきながら同意した。

「はい。とても、お似合いです」

 感想を口にしたエルヴァとストーリアの口調に、社交辞令な響きが含まれていないことが意外だったカイトは軽く首を傾げてみせた。

「そうですか? 自分には不相応って感じがするんですが……ただ、見た目より動きやすいのは嬉しいですね……いい縫製ですよね……服自体も思ったより軽いし、これってシルクですよね」

 肩を軽く回しながら軍服の印象を伝えるカイトに、エルヴァは小さくうなずきながら答えた。

「ああ、シルクだよ。最上級のね。筆頭魔道士団の軍服は国際儀礼なんかのドレスコードでも認められるし、こと戦場に立った時には国家の全権代理人を示す礼装も兼ねるからね。その国家が用意できる最高級の生地が使われるってのが通例になってる。大抵はどの国もシルクだね」

 エルヴァの説明を聞きながら、カイトは袖を撫でて感触を確かめた。

「最高級、ですか……たしかに軍服っていうよりは礼装ですよね、この服」

「これからは、その軍服を着倒すことになるからね。肌に馴染むまで普段から着ておくといいよ」

 エルヴァのアドバイスに対して、素直に首肯を返したカイトがぼそりとつぶやいた。

「食事は気をつけないとな……カレーうどんとか絶対ムリだ……」

 カイトの口から出た初めて聞くメニュー名に、小首を傾げたストーリアはオウム返しにメニュー名をぽつりと漏らした。

「カレーうどん?」

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